コラボレーション・エンジニアの考える日々

企業での情報共有とコミュニケーションについて、ITを中心に企業コラボレーションを考えていくブログです。

メイキングオブ Lotus Knows EXPO 2010 ノーツセッション - ストーリー作成編

前回の導入編に引き続き、今回はストーリー作成編。


■プレゼン作成のパラダイムシフト
今回、一番今までとやり方を変えた点は、チャートを作成する事としゃべる内容を考える事の実施順番を入れ替えたことだ。普通、チャートを作ってから、発表直前に「さて、これをどう話そうか・・・」と考える。これを逆にして、しゃべる内容やストーリーを決めてからチャートを作る。言い換えると、今までは資料が主役だったけれど、スピーカーが主役になるということ。チャートはあくまでもスピーカーがしゃべる内容を補足するためにあるという考え方だ。これによって、断然、プレゼンに説得力というか、観客を惹きつける力が出てくる。今までのやり方では、観客は資料に目を通しているばかりで、スピーカーの言いたいことに耳を傾けてくれない。僕らは本当は、しゃべる内容を聞いて欲しいはずだ。それをダイレクトに実現する方法なのだ。もし、「しゃべる内容なんて聞いて欲しくなく、とりあえず資料を読んでもらえればいい。プレゼンはやらなきゃいけないから話しているだけ。」というのだったら、資料を配るだけでいい。観客もそれを望んでいるはずだ。


ただ、この方法だと、資料だけ見たら何をいいたいのか分からなくなる可能性があるし、観客はメモを取るのに忙しくて話に集中してもらえないことになる。その為、配布用資料として、今までのやり方で作ってきたチャートを用意する。それとは別にプレゼン用資料を作るのだ。これは「プレゼンテーションzen」にも書いてある。特に、技術的な内容を話す場合は、配布用資料を用意するのは必須だろう。「プレゼンテーションzen」が流行っているからといって、シンプルすぎるチャートをそのまま配布資料として配るのは、技術者のプレゼンの場合は厳しい。なので、作成する順番としては、1.配布用資料、2.ストーリー、3.プレゼン資料、ということになる。


スティーブ・ジョブスは、製品を企画する段階から、自分がプレゼンすることをイメージしているという。話すことを決めてから製品を作る、ということだ。こんなことができるのはほんのわずかの人達だけだが、僕ら一般人レベルでも、話す内容を決めるのとチャートを作成するのを入れ替えることくらいはできる。


■ストーリーはシンプルに
よくあるのが、持ち時間に対して資料が多すぎて、早口で駆け抜けるタイプのプレゼン。満足度が低くなる原因だ。内容を充実させれば満足度が上がるというのは本当だが、それは、ちゃんと内容が相手に伝わる場合だけだ。内容をちゃんと伝えるためには、大事なところはゆっくりしゃべらなければいけない。その為には、余計な部分はそぎ落とし、重要な部分を浮き立たせることが必要だ。ストーリーはシンプルを心がける。「プレゼンテーションzen」では、チャートをシンプルにすることばかりに目を奪われるが、ストーリーをシンプルにすること、余計なものを入れないことも、「プレゼンテーションzen」で伝えられている重要なことだと思う。


■ストーリー作成段階では、プレゼンソフトは使わない
「プレゼンテーションzen」では、"Go Analog"と表現して、いきなりプレゼンソフトを使ってチャートを作り出すのではなく、紙と鉛筆でストーリーを書くことを推奨している。プレゼンソフトだと、そのソフトの機能に思考が縛られてしまうし、第一、プレゼンソフトは、ブレーンストーミングのためのツールではない。非効率なのもあるけれど、もっと怖いのは発想が絞られてしまうことだ。さて僕はというと、紙と鉛筆よりも、マインドマップソフトを使ってストーリー作りをしている。こちらの方が効率がいいからだ。まぁ、いろんな方法があるだろうが、要は、プレゼンソフトは使うなということだ。


■Lotus Knows EXPO の場合
配布用資料としては、もう既に8.5.2の新機能紹介資料を以前に作ってあったので、基本的にはそれを加工して用いた。その中身は、クライアント新機能概要、サーバー新機能概要、デザイナー開発新機能概要といったようにまとめられている。これをそのまま話しては聞くほうはつらい。量も40分で話すにはボリュームがありすぎる。それに本当に伝えたいのは、細かな機能拡張の内容ではなく、8.5.2ではクラウドやソーシャルや将来のWeb対応を見据えた準備がなされているということだ。なので、機能軸で話すのをやめ、以下の切り口でストーリーを組み立てた。

  1. クラウド対応
  2. ソーシャル対応
  3. 小ネタ
  4. モバイル対応
  5. Web開発
  6. まとめ
  7. One More Thing (IBM Project Vulcan)

1.クラウド対応
最初から「クラウド対応ですっ!」とは言わない。ネットワーク帯域による現在の問題点を説明し、それを解決する新機能を説明し、そしてそれはクラウド対応になっているのだという流れでストーリーを組んだ。物語的に語った方が、観客としては頭を使わなくていい。楽に理解できる。よく、「結論から先に申し上げますと・・・」とあるが、あれは時間が本当にないときはいいのだが、聞くほうには負担をかける。セミナーなどで時間が確保できている場合は、ちゃんと順を追って説明したほうが理解度を上げられる。また、8.5.2とLotusLive Notesの発表日が両方とも8/25実は一緒であったというのを驚きの材料として入れた。ここへの複線として、プレゼンの一番始めに、8.5.2の出荷開始日が8/25だったということをわざと強調して入れている。技術的な内容のプレゼンにおいて、驚きを提供するのは難しいと思うが、1つのやり方として、異なっているように見える2つの事象が実は関係している、ということをうまく演出して見せる方法が使えると思う。


2.ソーシャル対応
個人アドレス帳とカレンダーの機能を紹介したが、この2つの機能はただ紹介しただけでは、実に本当につまらない内容だ。しかし、伝えたいのはそうではなく、裏にあるソーシャルへのつながりなので、ダイレクトにソーシャルの軸で語るようにした。


3.小ネタ
クラウド、ソーシャルと重い内容がつづいたので、息抜き代わりに真ん中に小ネタを持ってきた。DBアイコンに自分の顔写真を貼り付けた例を見せて、楽しさを提供したつもりだ。楽しさは、気の利いたジョークや面白トークだけではない。技術的セッションの場合、技術で遊んで見せることで楽しさにつなげられると思う。


4.モバイル対応
iOS4, iPad, Androidなどへの対応を持ってきた。ここはごちゃごちゃ言うよりも、テンポ良く魅力的に映るようにするため、3分でごく短く時間を設定した。またここで、USでのAndroid普及率のデータを出し、驚きの材料とした。


5.Web開発
XPages Extensibility APIの話だ。これは新機能概要の資料ではさらっと流されがちなところだが、IBMの戦略上、重要な部分だ。だから、クラウド対応の時と同じく、現在の問題点から話し始め、物語として語り、XPages Extensibility APIによる今後の拡張への期待を引き出すところに気をつけた。次は、HMTML5だ。これも同様に新機能概要の資料ではひょいと流される内容だが、ノーツとしては重要な第一歩であるので、強調して取り上げた。HTML5というと、「なにそれ?」って人もいるだろうから、しょっぱなに、HTML5の高品質なストリーミング動画を入れることで、驚きと楽しさの両方を提供するようにしてみた。


6.まとめ
一旦、8.5.2としてのまとめを入れた。しかしこれは、まとめの目的よりも、次の One More Thing を強調するためのもののつもりだった。これで終わりと見せかけて、最後に重要なことを持ってきて、驚きを演出するのだ。ずばり、ジョブスのパクリである。


7.One More Thing
これはただ単に僕がやってみたかったから入れてみただけ。しかしIBM Project Vulcanを話すことになっていたので、ちょうど One More Thingにはまって、いい演出になったのではないかと思う。今回はたまたまここに持ってこられるものがあったからいいが、通常の技術セッションで毎回One More Thingを持ってくるのは難しいかもしれない。ただ、大きいものでなくてもいいので、小さなものでもいいから、何か用意しておきたいところだ。




以上、ストーリー作成の考え方と実際にどうしたかというのを記述してみた。一番僕が伝えたいのは、パラダイムシフトのところで述べた、ストーリーとチャート作成の順番の話だ。これは実際にしゃべる時にも生きてくる。さて、次はチャート作成編だ。これはまた後日。


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