コラボレーション・エンジニアの考える日々

企業での情報共有とコミュニケーションについて、ITを中心に企業コラボレーションを考えていくブログです。

カスタマイズ、自前主義は時代遅れ?

経済産業研究所の田中辰雄氏が「日本企業のソフトウェア選択と生産性」と題して、パッケージをそのまま使うのか、カスタマイズがいいのか、その考察を行っている。以下に引用させていただいた。

結論としては意外なことに日本企業のカスタムソフトウエア偏重にはそれなりの合理性があるという結果が得られた。日本企業がカスタムソフトウエアを採用する理由としてはネットワーク外部性効果や意思決定方法など必ずしも前向きではない要因もあるが、それより企業に特有のノウハウを生かすためという前向きの側面が大きい。本研究の推定によれば生産性の高い企業ほどカスタムソフトウエアを採用する傾向が検出できるからである。カスタムソフトウエアを選択することが不効率な選択であれば、カスタムソフトを利用する企業の生産性は低くなるはずであるが、実際は逆である。この理由は、カスタムソフトはその企業の特有のノウハウを生かすように設計することができ、それが生産性との正の相関を生み出しているためと考えられる。日本企業の競争力は労働を社内に長期雇用して蓄積したノウハウにあり、そうだとするとその強みであるノウハウを生かすためにはカスタムソフトの方が有利である。アメリカ企業の強みは企業特有のノウハウよりも機動的ですばやい資源の企業間・産業間移動であり、そうだとすれば標準化され、リードタイムの短いパッケージソフトが有利である。


日本の人材の流動化は欧米並のダイナミズムを持つにはまだ至っていない。労働政策研究・研修機構から2010年の転職率データが出ているので興味のある方はみていただきたい。以下に業界別の転職率を抜粋する。ノウハウの結集が必要な製造業において、転職率が低いのが興味深い。



さて、コラボレーション・ソフトウェアはどうだろうか。


コラボレーション・ソフトウェアは、コモディティ化されているという認識が一般的だろう。確かに、メール、カレンダー、掲示板や、最近のソーシャルウェアなど、ソリューションベンダーが出すものは平均的にはどこも同じようで、そのまま使って問題ないように見える。


しかし、コラボレーション・ソフトウェアは、それ単独で存在させていてはもったいない。業務アプリケーションと深く連携させてこそ効果がでてくる。仕事・業務は、一人で行うわけではなく、通常は、複数の人が関わってくる。それを考えれば、コラボレーション・ソフトウェアの役割は、1つの業務に関係する人々の間のコミュニケーションを仲介して加速化・結束化させていくことまで拡張される。


さらに、ワークフロー、成果物管理、チーム用ワークスペース、各種日報、社員名簿、Q&Aシステム、予約管理、アンケート収集、目安箱、などなど、コラボレーション・ソフトウェアがカバーする業務領域は広いが、これらは、日本のほとんどのお客様が何らかのカスタマイズを求めるだろう。


2010年は、コラボレーションエリアで各種SaaSが立ち上がってきた年だったが、SaaSのほとんどはカスタマイズができない。


自社が、欧米型のスピード重視でいくのか、日本型の長期雇用によるノウハウ蓄積型でいくのか、それを見極め、日本型である場合は、開発効率・カスタマイズの容易性を備えたコラボレーション・ソフトウェアを選択したい。そうすると、自社保有型ソリューションが有利だが、クラウドを検討するにしても、それが可能なサービスを選択したいものだ。バズワードに踊らされてはいけない。