コラボレーション・エンジニアの考える日々

企業での情報共有とコミュニケーションについて、ITを中心に企業コラボレーションを考えていくブログです。

「災害とソーシャルメディア」小林啓倫氏

僕の情報源であり、僕のソーシャルメディア系キュレーターと勝手に崇めている小林啓倫さんの新刊である。


この本は3.11震災時のソーシャルメディアの話だ。僕は、企業内でソーシャルウェアを活用する上で何かヒントがが無いかという視点で読まさせて頂いた。


第一章「ソーシャルメディアが可能にした災害時コミュニケーション」では、Twitterのネットワーク型、コラボレーション型の情報網を中心に論理が展開されている。これと対比されるのが、ピラミッド型の情報伝達だ。ピラミッド型のマスメディアと、ネットワーク型のTwitter。災害時には、スピードが要求され、想定外の事が起こり、対応すべき事象のプライオリティがどんどん変わっていく。それにはネットワーク型の情報網が有利だ。至る所にいる人々がモバイルデバイスで情報発信者となり、助けあいの精神から当事者意識が生まれ、どんどん情報がアップされていく。


3.11は、超大規模震災害時という、特殊な、緊急性を要求される状況だ。一方、日本のビジネス状況は悪化をたどる一方で、この数年で何とかしなければいけないという状況である。これは、特殊で緊急性があるといえないだろうか。ピラミッド型のポータルは、マスメディアと同様、必要ではあるが、それだけでは足りない。これからの時代、ソーシャルウェアによるネットワーク型の情報網、各社員が情報発信者となるモデルの必要性が感じられる。


第二章「ソーシャルメディアを支援するもの」では、モバイルの普及、動的に機能拡張できるWebサービス、リアルタイムウェブ、プロフィール公開の文化などが、ソーシャルメディアの普及を支えているという。特に、インターネットの匿名文化からプロフィール公開文化に移行してきているという点が興味深い。インターネットではプライベート情報をある程度公開し、それによってSNSで友達や知り合いを見つけやすくなるという利点がある。リスクをコントロールし、メリットを受けるということが、受け入れられてきている。


企業ソーシャルウェアでは社員が情報発信するというお話をお客様にすると、「うちはそんな文化はない」、「うちは個人商店でやっているから」、「社員は自分が持っている情報を出したがらない」というご意見をよくいただく。一頃のインターネットの匿名文化のようだ。企業内でも、自分のナレッジをオープンにすることによるメリットの方に目を向けてみる価値はあるのではないだろうか。


第三章「社会を動かすソーシャルメディア」では、中東の革命でのソーシャルメディアの効果として、「誰もが知っていることを誰もが知っていることに皆が気がついた」というのを挙げている。「自分だけじゃなく、皆、不満に思っていたのか!」と皆思い始めて、それが大きなうねりとなった。共感の共有というやつか。


企業内でも、社員はみんな、ポジティブであれネガティブであれ、いろんな想いを持っている。そういう想いはふわふわとしたもので、文書化されることはなく、普段の立ち話などで話されるくらいだろう。それが、全社レベルで共有できるとしたらどうだろう。ポジティブな想いは増幅されて社内改革につながらないだろうか。ネガティブな想いは、会社として早期に対応して、社員モラルを上げることができないだろうか。


第四章「デマの問題と対策」は秀逸だ。心理学者のオルポートとポストマンのデマの流布量の公式である「流言」=「重要さ」×「曖昧さ」を引き合いに出し、曖昧さを排除させることこそ、デマを収束させる対策だと説く。


企業内でデマが発生するというのはまずないだろうと思うが、会社施策の重要さに比べて曖昧さが際立つ場合、社員の行動を萎縮させるということはあるように思う。「なんでこんな施策をやらなきゃいけないの!?」というのは、IBM社内でもある。このような場合は大概、施策が立案された経緯や理由が示されていないのだ。そういうものは人の想いから発生するので、正式なアナウンスに、そういった内容が書きにくいのは分かる。そこをソーシャルウェアでカジュアルに共有できると、その想いに共感して、施策がちゃんと回っていくということにつながらないだろうか。


第五章「ソーシャルメディアの今後」では、一般市民の発言分析を中心に今後の可能性を示している。


企業内でも、ソーシャルウェア上に蓄積されたデータを分析して、コンテンツのレコメンデーションに利用したり、専門家サーチに活かすということは、今後、広まっていくだろう。




この本は、とにかく沢山の事例が出されている。それらを様々なデータと見識を刀に、小林さんが切ってみせてくれるソーシャルメディアの断面は美しい。きっと、ソーシャルに興味のある人、懐疑的な人、それって何?って人まで、インターネットの存在と同じくらい、ソーシャルメディアは無視できないものだと理解させてくれるだろう。


災害とソーシャルメディア ?混乱、そして再生へと導く人々の「つながり」? (マイコミ新書)

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