コラボレーション・エンジニアの考える日々

企業での情報共有とコミュニケーションについて、ITを中心に企業コラボレーションを考えていくブログです。

企業内ソーシャルウェアの活性化ロードマップ

「社内ソーシャルって何がいいの?」と言われた時、僕はいつも以下の3つのことを話しています。

  1. 情報発信が推進される
  2. 発信された沢山の情報がタグにより検索しやすくなる(情報のPull)
  3. 良い情報・重要な情報が、つながりを通して広まる(情報のPush)

1番の「情報発信が推進される」というところがベースになっているわけですが、お話をさせていただくと、大体「うちはそんな文化じゃない」、「情報はみんな抱え込んでいる。個人商店でやっている」、「情報をオープンにするのはセキュリティ上難しい」、というご意見をいただきます。社内の誰かが作った資料を別の誰かが必要としていたり、様々な部署からの情報・意見を取り入れるのが新しいアイデア発想には必要だとか、社員の総力を結集するのだ!とか、いろんな課題点・やりたいことを皆さんお持ちですが、ポイントは個々の社員の情報発信になります。でも、文化だとかセキュリティだとかが壁と感じられて、なかなか前に進めない・・・。


そんな時、以下の情報発信のロードマップという話をしています。



ソーシャルウェアの導入で目指すところは、右上6番です。みんながモチベーションされて、全社に向かって情報発信して共有されていく世界。ソーシャルの話をお聞きになるとき、皆さん大体こういった筋の話を耳にされることが多いと思います。しかし、いきなり6番を実現しようとしてもなかなか出来るものではありません。


そこで左下の1番から始めるのです。課題点の中で一番多いのは、情報公開範囲としてのセキュリティの問題ですが、セキュアなコミュニティの中で、情報発信を行います。そして、ソーシャル的なフィードバックによるモチベーションというよりも、従来のメールやファイルサーバーなんかよりも、全然便利だというところを実感してもらいます。


そして次は3番です。複数のチームや組織で使っていきます。従来のグループウェアだとこの部分が難しいのですが、ソーシャルウェアだと今までにない形で出来ます。例えばファイル共有。ひどいところだと、メールでファイルを添付して、それが転送、転送、転送されていきます。バージョン管理やコメント管理など、全くありません。グループウェアだとしても、組織間、チーム間でファイルを共有しようとすると、ファイルをコピーして共有しなければなりません。ソーシャルウェアでは、以下のようになります。



ファイルを共有されたユーザーは、さらに他のユーザーやコミュニティに共有することが可能です。その時、ファイルの実態は1つだけです。コメント、いいね数、ダウンロード数などのメタ情報も引き継がれます。ファイルが更新されれば、共有されたユーザーに通知が届きますので、常に最新バージョンのファイルで作業が可能です。これにより、1つのファイルを、必要な人にセキュアに柔軟に、組織やチームを超えて共有範囲を広げていくことが出来るのです。ちょうど、神経ネットワークのように共有が広がることから、"オーガニック・ファイルシェアリング"だなんて言い方もあります。


つぶやきに関しては、自分が参加する複数のコミュニティでつぶやかれた情報は、自分のタイムラインに集約されて入ってきますので、個々のコミュニティをそれぞれアクセスして確認する必要はありません。以下にイメージ図を載せておきます。




どうでしょうか。1番、3番から入っていて、2番、4番のソーシャル的なモチベーション喚起を経験しつつ、6番を目指すというロードマップです。
ソーシャルは、個人の能力を活かして活性化させるという新しいアプローチですので、定着には時間がかかると思います。いきなり理想形を目指すのではなく、まずは分かりやすく従来の情報共有を延長させる方向で推進し、徐々にソーシャル的なアプローチによる効果を狙っていきます。「とりあえずやってみよう」では失敗します。ソーシャルウェア展開には、自社に合ったロードマップを考えていきたいですね。


<関連エントリ>
サイバーエージェント渡辺氏のブログから気付く社内SNSでのコンテンツ投稿モチベーション
企業ソーシャルウェアを導入しても活性化は難しい?
人の質問になど答えている暇はない 〜 大久保寛司氏講演からの気づき

本気で考える脱メール

明日2012年12月12日は、グローバルで"No Email Day"ということになっています。ということで、僕が今年の11月9日にiSUCというIBMのユーザー会のイベントで講演したチャートを公開用に編集して共有します。プレゼンでは、デモをかなり交えながら行ったので、今一伝わらないかもしれないですが。。。



皆さんも明日は丸一日、メールを使わずに仕事してみませんか?

中古車販売ガリバーのソーシャル導入事例

サイボウズさんが「なぜ中古車売買トップのガリバーは、社内ソーシャルの活用に成功したのか?」という取材記事をアップしています。Yammerを使ったソーシャルウェア導入展開の成功事例として興味深いので、メモ代わりにポイントを書いてみます。


■ソーシャルウェア導入目的

  • 新しい試みをするので、いろいろな人を巻き込んで、アイデアを出したかった。
  • そもそも社長が以前から「2,000人の脳を動かす組織、会社にしたい」という方向性を打ち出していた。


■展開方法

  • トップダウンで指示。
  • オンラインだけでなく、社内イベントなどのリアルな仕掛けも実施
  • 実際に使ってもらううちに、便利さが認識されていった。


■効果

  • 様々な部署の人材が混在してアイデア交換できるようになった。
  • 横のつながりができた。営業所間で現場の状況をシェアできるので、本部からの指示がなくても、ダイレクトにアクションにつなげられる。
  • KnowWho効果。人材が見つけやすくなっている。


■成功要因

  • シンプルな使用方法。
  • 仕事の合間で情報をポストできる。
  • モバイル。企画は常に考えてなきゃいけない。飲んでいる時に思いついたアイデアをすぐポストできる。

Yammerみたいなつぶやきを中心としたツールは、「とりあえずやってみよう」ではすぐ使われなくなってしまう傾向があるように思います。しかし、この事例では、目的がはっきりしていて、トップダウンで実施したところに、違いがありますね。導入展開のやりかたはこれだけではありませんが、ソーシャルウェアの導入を検討されている方には、とても参考になる事例です。


※サイボウズさんがYammerの事例をあげているのも、個人的には参考になりますw

サイバーエージェント渡辺氏のブログから気付く社内SNSでのコンテンツ投稿モチベーション

サイバーエージェントの渡辺将基さんが「ユーザーは何をモチベーションに投稿するのか」というエントリをアップされています。渡辺さんは、金銭的なインセンティブでは長続きしなくて、他のユーザーからの反応がモチベーション維持には大事と言っています。このエントリは、インターネット上でのユーザー参加型サービスについてのエントリですが、社内ソーシャルウェアでの話にもつながっていると思いました。


金銭的な報酬がモチベーション維持に有効でないことは、モチベーション3.0のDan PinkのTed.comプレゼン「The puzzle of motivation」でも例が挙げられています。有効でないどころか、創造性を奪うという害があるというのです。社内ソーシャルウェアの導入では、社員にコンテンツを発信してもらうために、人事制度や報酬制度と連携させるという話がよく出てきます。しかし、Dan Pinkが示している実証実験や、渡辺さんのエントリを見ると、必ずしも有効に働くものではないことが分かります。従来のインセンティブは、営業の尻を叩くには良いかもしれませんが、個々の社員にナレッジを産んでもらうには逆効果ということになります。


他のユーザーからの反応がモチベーション維持に有効だというのは、twitterやfacebookでは良く聞く話です。あるお客様から私が聞いた話では、facebookでは"いいね"をもらうのが楽しみでつぶやいているとおっしゃられていました。確かに、誰も反応してくれないのなら、その内、つぶやく人はいなくなってしまうだろうことは容易に想像できます。とすると、社内ソーシャルウェアの設計では、なるべくユーザーの反応を吸い上げる仕組みが必要ということになります。例えば、ファイルをアップしたら、"いいね"をもらえたり、コメントをもらえたり、誰がいつファイルをダウンロードしたか、何回ダウンロードされたか、などの反応が分かれば、ファイルをアップするモチベーションとなると考えられます。



社内ソーシャルウェアの活性化策を考える時に、"金銭的・人事的インセンティブに頼らない"、"他ユーザーの反応を促す"という点というのは、重要なポイントとなってくるでしょう。


<関連エントリ>
企業ソーシャルウェアを導入しても活性化は難しい?
ソーシャルウェアを積極的に活用するユーザーは1割



モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

企業ソーシャルウェアを導入しても活性化は難しい?

お客様と企業ソーシャルウェアの導入について会話していると、毎回ほぼご相談を受けるのが、「結局、よく書き込むのはほんの一部の社員で、活性化は難しそう」という話です。このことについては、以前、「ソーシャルウェアを積極的に活用するユーザーは1割」というエントリを書いて、1割の意識の高い社員が発信する有用なコンテンツが共有されることは、スキルの底上げにつながるという内容をお伝えしました。


企業ソーシャルウェアの導入効果測定でも、この考え方を入れる必要があります。そうでないと、導入効果が実はあるのに、失敗だったという結果に見えてしまいます。具体的には、情報の投稿数だけでなく、参照数も計測していきます。(下図)



さらに、参照数を増やして効果を出していくためには、つぶやきなどのフロー情報だけではダメです。フロー情報はその名の通り、時間とともに流れて消えていってしまいますから、参照される期間は短いのです。ストック情報、つまり、ファイル、ブックマーク、ブログ、Wikiなどの溜まっていく情報へのアクセス数を捉えて、効果測定をしていくことが必要です。


<関連エントリ>
ソーシャルウェアを積極的に活用するユーザーは1割
ROC (Return on Contribution) という考え方
社内ソーシャルウェアの導入効果測定
社内ソーシャルウェアのROI

コミュニティとチームは似て非なるもの

コミュニティとチームとは別物だと思うんです。


チームには明確に成果物があり、それを作るためにメンバーが集められて形成されます。プロジェクトチームだとかタスクチームなんかがそうですね。そのために、従来のグループウェアでは、管理者がメンバーを定義してセキュアに情報共有できるスペースを提供してきました。


コミュニティは、同じ興味を持つ人々が自主的に(ここ大事!)集まり、情報共有したり意見交換したりします。そこには明確な成果物というのはありません。一人で悶々と考えているのは辛いですから、集まりたいというのは人間の本能かもしれません。また、人が集まっているところには、ちょっと参加してみたいというのもありますよね。お祭りとか、ラーメン屋の行列とか、職場で数人集まっていてなんか会話が盛り上がっている、とか。これらも、広く捉えればコミュニティでしょう。ソーシャルウェアと呼ばれているものには、コミュニティ機能があり、集まりたいという人の要望を実現してくれます。


このチームとコミュニティは、よく考えると別物なんですが、よく考えないと一緒のものにされがちです。従来のグループウェア機能でコミュニティを作ろうとして今一うまく行かないのは、ツールが合っていないのです。管理者主導ではコミュニティを形成するのは難しいです。以下に簡単に違いを示す図を作ってみました。




IBM社内では、ソーシャルウェアのIBM Connections上で沢山のコミュニティが立ちあげられています。働くママさんコミュニティ、悩めるPMコミュニティ、特定業界のお客様を担当する人のコミュニティ、日本で働く外国籍社員のコミュニティ、社内ツールを活用しようというコミュニティ、などなど。皆、思い思いのコミュニティに参加して、助けあったり、情報を得たりしています。


皆さんの会社には、コミュニティの基盤がありますか?

ROC (Return on Contribution) という考え方

社内ソーシャルウェアを導入しても、情報をアップしてくれる人はそんなにいないんじゃないか?という疑問をよくもらいます。ソーシャルウェアのつぶやきという仕組みに関しては、知り合いとのおしゃべりに近いので、従来のグループウェアと違って、情報発信する人の数は多くなると僕は考えています。しかし、つぶやきは企業ソーシャルウェアの1つの機能に過ぎません。ソーシャルファイル共有、ブログ、Wikiなど、まとまった情報をアップする人というのは、やはりそんなに多くないだろうとは僕も思います。感覚的には、1〜2割でしょうか。20:80の法則、パレートの法則などのようなものが当てはまりそうです。


だからといって、企業ソーシャルウェアの効果が無いわけではありません。読者の存在が大きいのです。ソーシャルウェアは、価値のある情報が凄い勢いで伝搬されていきます。インターネット上で"バズる"などと言っている現象です。読者の広がりは、情報共有範囲の広がりです。ソーシャルウェアによる情報共有の促進効果を測るのに、読者を忘れてはいけないと思うのです。


などと思っていたのですが、そんなような主旨のことが既に2009年にIBM Researchからレポートが出ていて述べられていました。


そこでは、効果測定の方法として"Return on Contribution"という考え方が提示されています。単純化していうと、「ROC=読者数÷作成者数」です。作成した情報に対し、どれだけアクセスされたかという事ですね。何も情報共有がされなければ、ROC=1.0です。この数値が2.0, 3.0へと上がっていけば、情報共有が進んでいるという見方です。


ROCは、社内ソーシャルウェアの展開担当者にとっては、情報共有の部分において効果を測れるというのはもちろんですが、ROCの伸びや落ちを見ながら、適宜、活性化策を打っていくアクションのトリガーとしても使えます。また、社員個人個人にとっては、自分自身のROCを見られれば自分の影響度を知ることになり、1〜2割の優秀な社員をより活性化させていくことにつながりそうです。管理職からすれば、部下のROCを評価項目として入れることが考えられるでしょう。因みに、僕の所属しているエバンジェリストチームはグローバルに散らばっているのですが、マネージャーはアメリカにいて、会うのは年に1〜2回です。故に、評価は売上の数字でドライに決められます。ただ、それだけだと、各エバンジェリストが発揮してきた影響度を無視する部分も出てきてしまうので、社内ソーシャルウェアのIBM Connections上でどれだけ貢献しているかが評価されるようになっています。こんな風に、他でも、グローバルチームでは評価方法が変わっていくのかもしれません。


さらに論文の中では、ソーシャルブックマーク、Wiki、blog、ファイル共有などのコンポーネント毎にROCを測ることにも言及します。やはり、それぞれのコンポーネント毎に特性があるでしょうし、活性化策を打っていくなら、コンポーネント毎にROCを捉えられたほうがよいでしょう。そうなると、ソーシャルウェアには、ROCを測る上で意味のなるアクセス数をログできるかという能力が求められてきますが、現時点では各社のソーシャルウェアはそこまで網羅的に機能を整えているところはないようです。ROCに限らず、利用効果測定は、今後の企業内ソーシャルウェアに求められる機能の1つになっていくのだと思います。


<関連エントリ>
社内ソーシャルウェアの導入効果測定
社内ソーシャルウェアのROI