社内ソーシャルウェアのROI
社内ソーシャルウェアというと、社内専用で使えるtwitterやfacebookに似たシステムが想起されると思います。間違ってはいないと思います。そういうイメージをお持ちのお客様とお話していると、「つぶやくなんて仕事じゃないし、ビジネス効果なんて無い」ということをよくお伺いします。つぶやきのイメージしかないと、そう思われるのも無理はありません。
つぶやきは、ビジネスコミュニケーションを活性化させる新しいアプローチとして非常に有効ですが、つぶやきはソーシャルウェアの一部でしかありません。ソーシャルウェアには、コミュニケーションの活性化と合わせて、情報共有の推進効果もあります。ブログ、Wiki、コミュニティ、アイデア共有、ソーシャルファイル共有、ソーシャルブックマーク、ソーシャルタスク管理、プロフィール検索などの機能や、それら全てをタグにより横串で整理して検索できたり、新着更新情報を通知してくれたりレコメンデーションしてくれる仕組みは、欲しい情報に辿り着きやすくします。情報が無いのであれば、知ってそうな人を教えてくれます。同じような仕事、同じ課題意識を持つ社員を自然と集めて、いわゆる実践コミュニティとかコミュニティオブインタレストと言われる人の集まりを自然発生的に作り出す効果も無視できない大きなポイントです。
IBMのソーシャルウェアである"IBM Connections"は、つぶやきだけではない、ソーシャルウェアの統合ソリューションです。最近、このIBM Connectionsを活用してビジネス効果を出されている事例をベースに、"The compelling returns from IBM Connections in support of social business"というホワイトペーパーが出ました。ソーシャルウェアのROIをどう考えたらいいのか思われている方にはぜひご覧頂きたい資料です。12ページにコンパクトにまとまっている英語の資料ですが、以下に、紹介されている5つの事例をさらにサマリーしてみます。
- 最初は、営業・カスタマーサービスでの活用事例です。3年間で1,200万ドルの効果ということです。しかしこの事例は、ソーシャルウェアだけでなくリアルタイムコラボレーションツールも含むので、ソーシャルウェア部分だけを見ると、810万ドルです。営業が情報を探しやすくなったり、困った時に相談したい人を簡単に見つけられるようになったことで、効率が上がり、本来の営業に使う時間が増え、売上が向上したということです。
- 次は、グローバルでの商品研究開発部門(R&D)での適用事例です。ここの会社は一般消費者向けの商品を開発していて、R&Dだけで1万人の社員がいます。これだけ多いと、どこで誰がどんな研究をしているのか分からないし、故に、同じような研究をいくつものところでやっていて二重三重作業になっていたりします。また、研究開発のキーであるアイデアを得るのに組織の規模を生かせていません。学術研究の世界では、世界中の大学や企業の研究機関で論文を共有したり、良い研究をしている研究者にコンタクトしたりといったことがなされていますが、一つの企業内では、意外にそのようなことが出来ていないのではないでしょうか。そこで、ソーシャルウェアを活用し、実践コミュニティを立ちあげ、どんな研究をしている人がいるのか可視化し、研究者間の会話を増やしました。その結果、無駄がなくなり商品開発サイクルが短縮され、新しいアイデアが誘発されやすくなり、1410万ドルの効果が出ました。
- 3つ目は、電力会社での人材育成への適用事例です。この会社では、高い能力の社員のアウトプットを共有できていなかったり、新人の三年以内の離職率が高かったり、熟練社員が他の社員の教育に多くのワークが割かれていたり、ジョブローテーションやプロジェクトメンバー集めに苦労していました。そこで、ソーシャルウェア、リアルタイムコラボレーション、文書共有の仕組みをトータルで導入しました。これにより、社員の生産性が向上し、新社員の即戦力化の期間短縮が出来て、離職率の低下につながったようです。トータルでは、2890万ドルの効果です。電力会社というと、特殊でどんな仕事なのか想像がつきにくいのですが、それ故、教育やナレッジ共有は死活問題なのでしょう。
- 4つ目は、ビル備品サプライヤーの事例です。ビジネスのグローバル展開に伴って、同じような機能を持つ組織が世界中に広がってしまい、社員はサイロ化されていると感じ、新製品・サービスを開発するのに、組織の壁を超えてアイデアを共有する必要がありました。そこでソーシャルウェアにより、技術者同士の交流を増やし、有用な情報を共有し、生み出されたベストプラクティスを共有しました。ここでは、コミュニティオブインタレストがキーとなっています。同じ課題意識を持つ社員が集まって、他の社員が考えていること、成功体験、失敗体験、悩み事の共有を行ない、フォーラムにより議論がされています。それにより、コミュニティが製品開発スピード短縮に貢献するようになり、平均12ヶ月の開発期間が4ヶ月に短縮され、1年で100万ドルのコスト削減効果があったとのことです。そして、この事例では、コミュニティの数、グローバル横断のコミュニティの数、参加している社員数などの数字を観測しています。具体的なストーリーとして、ブラジルで開発された製品がドイツの技術者によって認められ、グローバルデビューしたというようなことも紹介されています。
- 最後は、B2Cの事例で、法律関連教育サービス会社が、自社の顧客向けにコミュニティサイトを立ちあげ、顧客ロイヤリティを高めている事例です。セミナー参加者をコミュニティに招待し、そこでは、セミナー資料共有、最新ニュース、法分析、専門家紹介、Q&Aなどが行われています。今や巨大なコミュニティへと成長し、ビジネスネットワーキングの場となっていて、お互いに学び合ったり、キャリア転職の機会獲得ができたりするようです。
ここまで読んでいただいた方には、多分、疑問が出てきているとおもいます。「ソーシャルウェアの導入が、売上向上・コスト削減に本当につながっているのか証明できていないのではないか」と。確かにそうです。売上が上がったとしても、それはもっと別の要因によるものだったかもしれません。ただ、コミュニケーションの活性化や情報共有の促進は、多くの部門で良い効果を出すだろうということは感覚的に理解できるのではないでしょうか。実際、IBMが世界中のCEOに調査した結果を集めた最新のレポート「IBM Global CEO Study 2012」では、企業内の様々な事柄を押しのけ、人々の"つながり"が企業優位性を構築するキーだとまとめられています。
コラボレーションと売上の関係を厳密に証明できなくても、世界中のCEOや人々は感覚的にそれを理解しています。であれば、その仮定の下に、アクションを起こしていくことが必要なのではないでしょうか。いわゆる仮説検証型アプローチというやつです。証明されるのを待っていたら乗り遅れます。「事例を見てから・・・」というのであれば、もう沢山の事例があります。今の時代、有効と見られる手段は、まずは試してみて、その効果を捉えていくスピード感が必要だと思います。ソーシャルウェアは、そういった有効な手段の中の最有力候補なのです。
とはいえ、投資をするわけですので、ソーシャルウェア導入効果を数字で捉える必要はあります。いきなりコスト削減や売上向上の数字と結びつけるのではなく、その手前の、コミュニケーションの活性化や情報共有の促進状況を、ソーシャルウェア上のデータをトラッキングして把握していくのです。イメージとしては、4番目の事例でコミュニティの活性化状況を測定していたのが近いですね。IBMでは、測定方法を「Measuring the value of social software」というホワイトペーパーで紹介しています。こちらも合わせてご覧頂くことをおすすめいたします。次のブログネタはこのホワイトペーパーかな・・・。