メイキングオブ Lotus Knows EXPO 2010 ノーツセッション 〜 プレゼン実施編
導入編、ストーリー作成編、チャート作成編と書いてきたが、今回はプレゼン実施編。これで終わり。
■チャートでなくストーリーをしゃべる
ストーリー作成編、チャート作成編では、ストーリーが主役であって、チャートはそれを補足するものに過ぎないと書いたが、プレゼン実施では、いよいよそれを実践することになる。チャートに引きずられてしゃべるのではなく、しゃべりにチャートがついてくるという感じだ。だから、プレゼンする時は、しゃべりで少し頭出しした後にチャートを表示する。その方が、観客はチャートでなくスピーカーに集中してくれる。そうなると、観客と自分との間にPCがあるという物理的な位置づけも変えたい。PCが前にあると、チャートを見ながら説明してしまいがちになるし、観客から見ても、そのように見えてしまう。だから、観客と自分は直接対峙し、PCは自分の後ろにあるという物理的な位置づけを作る。つまり、演台から離れて、ステージ前方ギリギリに立つ。その為には、プレゼンリモコンが必須だ。僕は、TargusのAMP18APというリモコンを使っている。こいつは、ページ送り戻ししか出来ないシンプルなものだが、エルゴノミクスデザインで手に馴染むし、15mも届くし、PC側のUSBポートに差す受信装置が本体に仕舞えるのでなくさないし、バックアップ用の電池が内蔵できるので安心だし、なにしろ3,000円程度で買えるのでお財布に優しい。以前はiPhoneをリモコンとして使っていたけど、持ちにくいしボタンじゃないから押しにくくプレゼンに集中しにくくなる。やっぱり、専用のリモコンの方が安心してプレゼンできる。
■練習する
スティーブ・ジョブスは、基調講演の前には2日間リハーサルをするという。「プレゼンテーションzen」でも、武士のように何も考えなくても実行できるまで練習が必要だと説いている。この点、今回の僕は落第点だ。なにしろ、当日の午前中までプレゼン資料とデモを作っていたのだから。通してしゃべってみたのは1回だけ。あとは、ぶつぶつと電車の中や控え室でしゃべる内容を確認していた。でも、ストーリーがちゃんと組み立てられていれば、意外にしゃべれるものだ。連想ゲームのように次々としゃべる内容が思い出されてくる。それこそ、チャートが無くてもしゃべれる。チャートが表示されるより先に内容をしゃべるので、「すごく練習したでしょ?」と聞かれるのだが、実態は書いたとおりだ。ただ、やっぱり練習は重要。本番では東京、大阪ともにいくつか失敗している。
■動きまわる
ステージでは、動きまわってしゃべるとリラックスできる。携帯片手にオフィスで自分の席があるのにそこらへん歩きまわりながら電話している人がいるが、あれは、無意識にリラックスするためにそうしているんだろうなと思う。回りの人には迷惑だけど。観客から見ても、ステージに変化がある方がいい。ただ、重要なことを言う時は、止まって観客を見据えて、ゆっくりしゃべる。
■時間管理は注意
今までの経験から、僕は1ページ2分という体内タイマーを持っているが、プレゼンテーションzenのやり方だと、これが使えない。今回の場合、30分で51枚のチャートだったので、平均すると1ページ35秒だ。実際には、3秒しか使わないチャートもあり、バラバラなので、さらに時間管理は難しくなる。また、演台から離れてしゃべるので、時間を確認するのも難しい。腕時計をちらちら眺めながらというのはあまりよくないだろう。今回は、ストーリーの区切り目を大まかに3つに分け、時間配分を決め、区切り目でちらりと腕時計を見て確認していた。僕は目の前に時計があれば、2〜3秒の誤差でプレゼンを終わらせる自信があるが、今回の誤差は、2〜3分まで拡張してしまっていたかもしれない。
よく、時間を超過して延々としゃべっていたり、逆にショートしたりするプレゼンを見るが、プロとしては失格だと思う。沢山の情報を伝えれば観客は満足するだろうと早口で終了時間を超えてもしゃべるというのは、プレゼンテーションzenの考え方からすると、シンプルでなく、そのため重要なポイントを際立たせることができないことになる。観客の貴重な時間を奪うことにもなる。僕なんかはそういうプレゼンを聞いててまだかまだかと思い始め、集中できなくなってしまう。一方、ショートするのは、十分な情報をもらえなかったと観客に受け取られることになるだろう。時間管理は重要だ。プレゼンテーションzenでのプレゼンには、時間管理の点からはまだまだ工夫する余地がたくさん残っている。
■アニメーションを使う
技術者の中には、アニメーションを嫌う人がいる。技術の本筋ではないと思っているのかもしれない。確かにそうだ。内容の本筋ではない。しかし、その内容は伝わらなければプレゼンする意味はない。アニメーション、特に、一枚のチャート上の構成要素を順番に表示させる方法は、観客にとって、どこを見ればいいのかよく分かり、理解の助けになる。また、今回は、Androidがシェアを伸ばしているというグラフを見せるのに、左から右へグラフをゆっくり表示させるアニメーションを使った。こうすることで、シェアの上昇というのが強調できる。パワーポイントでもある程度こういったグラフの見せ方が工夫次第でできるのが分かった。
■生デモはやらない
僕が生デモをなるべくやらない理由は以下の3つだ。「プレゼンテーションzenデザイン」の中でも、デヴィッド・S・ローズが"Do not Live Demo"と言っているのを引用している。
- プレゼンのテンポが悪くなる。
- 画面拡大がやりにくいので、後ろの観客が見えなくなってしまう。
- リモコンで操作できないので、演台に戻らなくてはならない。
その為、デモは予め録画しておく。 僕が使っているのは、Camtasiaというツールだ。僕が所属している部署では、全員にこのライセンスを使えるように契約している。だからCamtasiaを使っているというだけで、他のツールと比較検討したわけではないが、トランジション効果、ハイライト効果、ズームなどが簡単に出来て、便利だ。
ムービーによるデモに対するネガティブな意見は特に聞いたことが無いが、実際のところ、どうなんだろうかと思う。スティーブ・ジョブスは生デモしているし。ただ、デモの準備と練習のコストと、実際の効果を天秤に載せると、今のところの僕の最善のやりかたは、ムービーデモだ。
■音声を流す
雰囲気を変えたり、楽しさを演出するのに、今回は、AppleのHTML5サイトにある動画をPCからの音声出力も使って会場に流してみた。スティーブ・ジョブスのプレゼンでは、10分程度でいろんなコンテンツに切り替わっていって飽きさせない工夫がされているが、発想はそれと同じ。視覚に加えて、聴覚に訴える方法というのは、もっと使ってもいいかもしれない。会場施設に機材があれば、今後もできるだけやってみたい。
さて、4回に渡って書いてきたシリーズは今回で最終回。「プレゼンテーションzen」の僕なりの実践を書いて共有させていただいてきたが、プレゼンをする技術者にとって1つでも参考になったものがあればうれしい。さらに言わせてもらえれば、世の中のプレゼンがより分かりやすく楽しいものになり、船を漕ぐ人が一人でも減ることに貢献できれば幸いである。
尚、ここで書いてきたのはプレゼン実施の応用編であって、基礎であるアイコンタクト、ドッグワードを言わない、あがり対策、身振り手振り、発声、発音、間の使い方、メリハリのつけ方などは、何も書いていない。このあたりはIBMの新人研修では必ずやるし(最近はどうなってるんだろう?)、世の中に沢山コンテンツがあるので、敢えて僕が言う必要はまったくないのだが、ブログのネタに困った時は、今までの僕の経験から少し書いてみようかと思う。
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